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■「観光沈国にするな」-2004/03/10
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 観光立国どころか、このままだと「観光沈国」だ。「住んでよし、訪れてよし」というかけ声はいいが、進むべき方向やイメージがまったくみえてこない。カネにものをいわせて巨額の広告宣伝費(しかも税金)をつぎ込めばいいという考え方も見え隠れする。また、観光施設の整備など「建設バブル」を煽りたて、儲けようとする企みも匂う。

 そもそも、本気で観光立国を目指すなら、観光立国20年計画くらいのものができていなければならない。役人が書いた箇条書きレポートで「国家戦略」などといっているようでは、話しにならない。懇談会を開くのは賛成だが、観光立国への情熱や使命感は伝わってこない。
 
 わるいことに懇談会に出席しているメンバーは「英語幻想」にとりつかれている。「英語は言うに及ばず」などと平気でいい、「日本人の語学力の低さ」、「島国意識から来る消極的な態度」などといって国民をバカにする。こんなことをいう役人や学者を集め「住んでよし、訪れてよし」などといっている。まったくもってみっともない。

 訪日外国人の6割がアジア人でありながら、なぜ「英語は言うに及ばず」になるのか。中国語圏、韓国語圏からの訪日外国人の方が英語圏の訪日外国人よりも多いというのに、なぜ「中国語、韓国語は言うに及ばず」とはならないのか。この根っこにあるのはアジア蔑視の考えであり、傲慢な態度だ。

 「英語は言うに及ばず」などといっている役人や学者は、中国や韓国からの訪日観光客をバカにしている。しかも、「日本人の語学力の低さ」、「島国意識から来る消極的な態度」などといって国民もバカにしている。訪日外国人の対応はプロの通訳者や通訳ガイドがしっかり対応すればいいことであって、一般の国民が対応できなくたって問題じゃない。

 だいたい、これから対応しなければならないのは中国語や韓国語であって「英語」ではない。外国人に対する「消極的態度」は、どの国でもみられる一般的な現象であって、日本特有の現象ではない。程度差はあるが、どの国にもある。それを「島国意識から来る消極的な態度」などといっている。

 「日本人の語学力の低さ」とは何を意味するのか。それは「英語」の語学力であって中国語や韓国語の語学力のことではない。その「英語の語学力の低さ」がもっとも問題なのは知的エリート層(経営者、大学教授、政治家、役人、新聞記者)であって、一般の国民のことではない。知的エリート層にある人間こそ「英語」は言うに及ばず中国語もしくは韓国語が使えなくてはならない。

 問題となるのは、中国語や韓国語などのアジア言語を専門とする通訳者や翻訳者をどうやって大量に養成し、プロとして育てていくのかという問題だ。全訪日外国人の約30%(150万人:2001年)は中国語を母語とする中国語圏から、また約24%(110万人:2001年)は韓国語を母語とする韓国からの訪日外国人だ。

 観光立国を考えるうえで、まずターゲットとしなければならないのは、中国語圏と韓国語圏だ。国でいえば韓国、台湾、中国になる。こんなことはマーケティングをやるうえでの基本だが、「英語は言うに及ばず」などといっている役人や学者にはわからない。

 アジア言語を専門とする通訳者や翻訳者を大量に養成し、プロとして育てていくためには、現行の教育制度や専門学校ではまったく対応できない。いくら中国語ブームや韓国語ブームを活用したところで、ちゃんとしたプロを養成するには最低10年かかる。

 アジア言語を専門とする通訳者や翻訳者を「大量」に養成するため、アジアからの留学生、帰国子女、在日外国人のなかから適正のある人を選別して教育するとか、補助金でも何でも使って一日8時間以上の猛勉強に耐えてもらうかわりに留学資金を援助するとか、そういう議論がまったく行なわれていない。

 あいかわらず「英語幻想」にとりつかれ、英語中心の発想しか出てこない。韓国、台湾、中国という近隣諸国との文化交流をどう進めるのか、お互いの歴史と文化を尊重し、相互交流をどう進めていけばいいのか。

 千年以上にわたる文化交流の歴史を検証し、よりより社会と未来をつくっていくためにはどうすればいいのかという真摯な姿勢、態度、哲学、情熱が欠如している。アジア蔑視の態度を改め、相互理解と相互発展の道を真剣に探らなければ、間違いなく「観光沈国」になる。

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平岩 大樹(ひらいわ たいき)

 1998年10月、通訳翻訳館の前身となった求人求職マッチングサイト「個人翻訳通訳館」ウェブサイトを立ち上げる。2000年に同サイトを通訳翻訳館に名称変更し「通訳」と「翻訳」に特化した求人求職マッチングサイトを開設。現在、通訳翻訳分野における「求人と求職のミスマッチ解消」を使命とし通訳翻訳館を運営している。




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