2002年7月3日、政府の知的財産戦略会議から知的財産戦略大綱が公開された。知的財産戦略大綱は「知的財産の創造のより一層の推進と、その適切な保護・活用により、我が国経済・社会の活性化を目指す具体的な改革工程を示し、「知的財産立国」の実現に向けた道筋を明らかにし、さらには、我が国の明るい未来を切り拓く政府の決意を表明」したものだ。この知的財産戦略大綱はプロ・パテント時代の通訳翻訳ビジネスを展望する上で示唆に富むものとなっている。
まず、知的財産には特許、商標、意匠、著作権、営業秘密(製造ノウハウ)などがある。具体的にはコンピュータプログラム、ブランドファッション製品、車のモデル、音楽、小説といったものである。日本における知的財産を取り巻く状況について、日本貿易保険理事長の荒井氏は「基本特許がない、特許の貿易が赤字、特許や著作権が侵害され、にせものの被害が深刻だ」としている。そして現在の日本は「知財後進国」であると2002年3月20日の知的財産戦略会議で主張した。
日本が「知財後進国」である原因のひとつとして考えられているのが米国に比べ約ニ十分の一となっている大学からの特許出願件数および特許取得件数だ。そのために大学における先端技術の研究開発・特許取得とその活用のための取り組みを強化するとともに産官学連携を推し進め、大学が基本特許の工場としての役割を果たすよう、初等・中等教育の段階から創造性を発揮させる教育を施し、豊富な知的財産を生み出す環境を整えることが急務であるとしている。
日本企業の特許出願状況については「我が国企業は特許出願に熱心であり、我が国の国内出願は世界で最も多い。他方、グローバル競争が激化しているにも関わらず、欧米にも共通して出願されている特許はむしろ少ない」とし「我が国企業にとっては、今後、グローバルな競争を意識した戦略的な対応が急務であり、国際競争に耐え得る高度な発明の創造を促進し、その発明についての特許を世界的に確立すべく、企業に早急に対応を促すとともに、日本版バイ・ドール制度の拡充など、政府において十分な環境整備を行うべき」としている。
知的財産権を保護するための戦略として実質的な「特許裁判所」機能を2003年までに設けるとともに、2004年4月から開校される法科大学院において知的財産分野における専門弁護士・弁理士を数・質においても大幅に強化。摸倣品・海賊版等の知的財産権の侵害を防ぎ、権利が侵害された場合の速やかな紛争処理基盤を同時進行で整えるとしている。
いままで国内偏重だった日本企業の特許出願もIT化したグローバル経済下で企業利益を守り、摸倣品・海賊版の出現を防ぐために世界各国で特許出願するようにならざる得ない。大学は基本特許を「金なる木」として世界各国に特許出願し権利化してライセンス収入を狙うだろう。強力な保護戦略を推し進めることで海外企業との紛争が多発することから知的財産分野における司法通訳者も必要となる。
以上から知的財産を大量に創造しながら知的財産が適切に保護される知的財産立国における通訳翻訳ビジネスは知的財産立国制度を下支えする重要な専門サービスとなる。産官学の連携のもと基本特許の工場となる大学から次々と基本特許が生み出され、その基本特許を活用して企業が応用特許を出願するという構図が動き出した時、司法通訳・特許翻訳は法務サービスを構成する欠かせないサービスとなるだろう。
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