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「読者は知っている」-2005/09/15
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 「本が売れない」じゃない、「売れる本がない」じゃない。買いたい本がないんだ。心から「いい本」に出会えた、「いい買い物」をした、そう思って買える本がどれだけある。

 みてくればかりの翻訳書、上から下を見下げる翻訳書、権威づけされた翻訳書、仮面をかぶってふんぞりかえっている翻訳書、そんなもので「まだ売れる」と思っているほうが、どうかしてる。

 しかもだ。「読解力の低下」、「学力の低下」、「集中力の低下」などといって新しく生まれてくる読者も攻撃している。いまごろ得意客になってくれていたはずの若者たちは、読書のすばらしさ、読書の面白さ、読書の感動をあじわえないまま社会に放り出され、インチキ翻訳や三流翻訳に翻弄されている。

 分野は違うが、「車が売れない」、「売れる車がない」などといってつぶれそうになった自動車メーカーが日本にあった。みてくればかりでちっとも役に立たないパーツ、たいした機能もない飾り物オプション、何年たってもかわりばえのしない車体。無感動に車をつくり、数売って、工場を稼動させ、箱のような車を大量生産したから、大事な顧客を失った。

 その自動車メーカーとは、日産自動車のことだ。危うく倒産は避けられたものの、フランスの自動車メーカー「ルノー」の傘下に入って経営トップをカルロス・ゴーンに入れ替えた。

 ゴーンは「コストカッターの経営者」というだけあって、大工場の閉鎖、下請け・系列会社の全面見直し、新車開発の凍結、生産車種の大幅削減、不要経費の削減など、徹底した止血策を施し、日産の企業体質改善に取り組んだ。

 雇用を破壊したとか、工場城下町を破壊したとか何とかいって、経済評論家に叩かれたこともあったが、日産の業績は数年で黒字化し、その経営手腕は多くのメディアから賞賛されるようになっていった。

 日産自動車が「車」で復活するなら、車種(ブランド)が何になるのか、どう登場させるのか、それをワクワクしながら待った。だから、「SHIFT_the future」ではじまる、新しい広告コンセプトにはガツンとやられた。なぜかというと、いままでの業界常識を突き破って「開発責任者」を登場させたからだ。

 見栄えのいい売れっ子タレントでもない。スタイルのいい外国人モデルでもない。声のいいナレーターでもない。開発の現場で車をつくりあげた開発者、その人間にありのままを語らせる。

 誇張はいらない、飾り物もいらない。車をどうつくったのか、どういう人のためにつくったのか、どうつかってほしいのか、それを静かに語る。それが、日産の新しい広告コンセプトだった。

 日産の新しい広告コンセプトは、日本の大手自動車メーカーの意識を変えた。いままで、「裏方」扱いしてきた開発現場の人間を、日産のように表舞台に立たせ、責任ある発言をさせるようになった。

 日本の出版社、出版人も日産から学び、「裏方」扱いしている開発現場の人間を表舞台に立せるべきだ。開発の現場で本をつくりあげた翻訳家、その人間にありのままを語らせる。なぜ翻訳したのか、どういう人のために翻訳したのか、それを静かに語ればいい。本物なら、目で語る。それを読者は知っている。



平岩 大樹(ひらいわ たいき)

 1998年10月、「通訳翻訳館(http://www.ithouse.net/)」の前身となった求人求職マッチングサイト「個人翻訳通訳館」ウェブサイトを立ち上げる。2000年に同サイトを「通訳翻訳館」に名称変更するとともに「通訳」と「翻訳」に特化した求人求職マッチングサイトをはじめる。現在、通訳翻訳分野における「求人と求職のミスマッチ解消」を使命とし「通訳翻訳館」を運営している。


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