いわゆる竹島(韓国での呼称はトクド=独島)の領土問題は、日本・韓国間で、決着しないまま長い年月が過ぎている。○○年の時点で、こちらの領土だったなどという、過去の資料だけを、いくら出してきても、決定的な解決になりはしない。竹島に関して、自分達の正当性を意見表明している個人・団体はあるが、両国の主張を冷静・客観的に紹介し、両国の国民に議論が盛り上がるように橋渡ししている翻訳は、驚くほどない。
そんな中で、日本側は、2月22日を「竹島の日」にしようとしている。韓国側は、10月25日を「独島の日」にしようと、世論が盛り上がり、ウェブ投票も行われた。だが、不気味なほどに両国どちらでも、議論は一人相撲の感があった。仕かけている側は、相手国での動きを意識して、自国世論を作ろうとしているはずなのだが、相手の言い分に対しては、徹底的な「無視」を貫いている。
なぜ、誰も訳さないのか。議論を喚起しないのか。攻撃が怖いのか。小さな島に、巨万の宝が埋まっているわけでも、巨大油田があるわけでもない。感情的な問題が多分に支配している。放っておいて、感情のもつれが悪化することはあっても、自然に鎮静することはない。あえて矢面に立ち、言葉の違う人々の間で、話し合いを取り持つ人間がいなければ、永遠に解決しない。
いわゆる北方領土問題に関しては、北海道とロシア側が協力し、ビザ無し交流事業が長く行われてきた。北方領土と呼ばれる4島に、現在居住しているロシア人がいることを考慮し、日本人の4島訪問、4島居住者の日本受け入れ、ホームステイなどを通じた交流に加え、今後どうして行けばよいのかを話し合うプログラムも行われた。ビザなし事業の、企画・運営全般にわたって、質・人数ともに十分なロシア語通訳をそろえる手配がなされた。
北方領土について、より急進的な解決を望む人もいるし、ロシア側との一切の妥協を拒んだり、ビザなし交流に反対する人もいたであろう。しかし、ともかくも双方向の話し合い・交流が行われ、戦争や取り返しのつかない両国の反目に発展せずに、領土問題を解決に向けて前進させようとする、さまざまな努力が続けられてきた。その過程において、ロシア語通訳・翻訳者が大きな役割を果たしたことは間違いがない。
竹島(独島)には、生活者としての居住者はいない。自分の利害に関係のないところで、観念的かつ感情的な物言いをしている人々も多い。北方領土に比べ、ある意味、決め事だけですむはずの問題を、これだけこじらせているのはなぜだろうか。政治家の無能もあるにしても、問題解決に進んで努力する通訳・翻訳者の不在という責任は、見逃せないほど大きいのではないか。
「韓流」ブームで、韓国語学習者の数は増えている。それよりずっと以前から、両国の言葉に通じている人間が、日・露語人口よりはるかに多くいる。にも関わらず、大きな宿題をそのまま放置してきたのは、私たちの怠慢だ。
いつまでも子供じみたやり方で、自国民だけを相手に先方の悪口を言っている人々を、見て見ぬふりで良いのか。一歩ずつ本当の解決に向けた動きをすべきではないか。通訳・翻訳者たちがその気になれば、止まっていた情報も、心のわだかまりも、確実に外へ向けて流れ始める。その過程で生じるあつれきをも、本物の交流に変えていくのが、私たちの力量であろう。
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