この数年、書店に足を運ぶ回数がめっきり減った。いまでは大型書店を何軒も「はしご」することもない。本を読まなくなったのではなく、本を買わなくなった。本は買わないものの読む本の冊数は逆に増えた。書店にいかなくなったことで読書の質が向上し読む本もガラリと変わった。
書店で何冊も「ため買い」行動を繰り返していた頃は新刊ばかり買って積読していた。いわゆる「新しいものはいいものだ」という固定観念にとらわれ新刊ばかり追いかけていた。書店の陳列棚も新刊ばかりを飾り立て、綿密に計算されつくした書店側の陳列販売戦略にうまく乗せられていた。
いまではお金を出して購入する本の数は年間に数冊しかない。お金を出して購入するだけの「価値」がある本しか買わなくなった。このように消費行動を変えることができたのはアマゾンドットコムなどのオンライン書店の発展とネットワーク化された地域図書館データベースのおかげである。
例えばアマゾンドットコムなどのオンライン書店で新刊書籍や売れ筋情報を入手したり、キーワード検索や複合検索で読みたい本を探し出すことができる。またインターネットでネットワーク化された地域図書館データベースにアクセスし読みたい本が地域図書館に蔵書されているかチェックし資料予約することもできる。
その結果、オンライン書店でチェックしておいた読みたい本を地域図書館データベースで再検索し資料予約しておけば大抵の本は購入しなくても読むことができるようになった。しかも期限までに通読して返却すれば本の置き場所や本棚の空きスペースに悩むこともない。読みきれなくてもまた予約を入れて借りればいい。
絶版や廃刊になった本でも地域図書館になら蔵書してある。一般の新刊図書ですら発売から1ヶ月程度で図書館に入庫されるのでしばらく待ってから再度検索すれば大抵は借りられる。また大学図書館も卒業生に開放されているので超高度な専門書や専門書の新刊書が読みたくなったら大学図書館の蔵書データベースにインターネットでアクセスし資料予約できる。
このようにオンライン書店と地域図書館の書籍データベースをうまく活用すれば書籍代として消えるお金を節約し、その分のお金を有効活用することができる。このような消費行動を多くの日本人が実践しているので「本」が売れず書店や出版社の売上高が毎年減少している。書店や出版社には気の毒だが、この傾向はデフレ経済のもと長く続くだろう。
お金の節約だけでなくオンライン書店と地域図書館の書籍データベースの検索機能によって、いままでできなかった本探しができるようになった。その一つに翻訳家で探す本探しだ。人気作家やシリーズもので探していく、巻末の参考文献で面白そうな本を探すなどの発掘手法はよく紹介されている。たが、翻訳家で探す本探しは相当の読書家か翻訳家志望者くらいしか知らない方法だ。
一般読者は「翻訳書」といっても誰が翻訳したのかなんて気にしない、そもそも翻訳家の名前すら知らない。一流の翻訳家が誰で、三流や新人の翻訳家が誰かなんて知らない。だから、翻訳家によって文のスタイルや繊細な表現方法が変わるということも知らない。三流の翻訳書を読んで自分の読解力のなさを嘆く一般読者も多い。
「本はまあまあ読んでいる」と自分で思っている人なら、翻訳書のなかに「日本語ですら理解できないモノ」と「ため息がでるほどすばらしい本」があることを経験的に知っているだろう。大手出版社の翻訳書なら間違いなく三流翻訳と一流翻訳の違いと言っていい。大手出版社は売れない三流本の原書をわざわざ日本に持ち込んで売ることはしない。大手出版社は海外で高い評価を得ている「売れている本」しか基本的に扱わない。
数千万円から数億円といわれるベストセラー翻訳版権(日本語に翻訳して販売する権利)を購入できるのは大手出版社しかいないので、大手出版社には一流の原書が世界各国から集まる。大手出版社もベストセラーの翻訳には一流の翻訳家を登用する。しかし、一流の翻訳家と言われる実力と業界評価を持つ人はそうはいない。いくら一流の原書を海外から持ち込んでも、それを一流の翻訳で翻訳できる翻訳家が数少ないためしばしば「原書一流、翻訳三流」という商品が生まれる。
翻訳家の翻訳スケジュールと出版社の出版スケジュールがどうしても合わないと、新人翻訳家や大学教授などに回されてしまう。新人翻訳家でも師匠(一流の翻訳家)の指導のもと翻訳された翻訳書なら危なくない。実際、そのような翻訳書に「原書一流、翻訳三流」となっているものは読んだことがない。「原書一流、翻訳三流」によく遭遇するのが大学教授が翻訳したものやベンチャー企業の社長、自称××コンサルタントが手がけたものだ。
数時間から数日かけてわざわざ読むのだから「一流の原書を一流の翻訳で読みたい」と思わない人はいないだろう。別に一流の翻訳家が誰なのか探さなくてもいい。いままで読んだお気に入りの翻訳書を本棚から出して誰が翻訳しているかチェックするだけで翻訳書の金脈さがしに出発できる。
お気に入りの翻訳書から書き出した翻訳家の名前をアマゾンドットコムなどのオンライン書店の書籍データベースで検索してやれば、その翻訳家が手がけた翻訳書リストが瞬時に表示される。一流といわれる翻訳家や大翻訳家なら数十冊から数百冊の大金脈が見つかるだろう。新人の翻訳家なら数冊程度かもしれないが、気にいった翻訳スタイルで翻訳された翻訳書の魅力というものを発見するに違いない。
最後に学術系専門分野における翻訳書は大学教授や学者が「海外文献を日本に紹介するため」に翻訳しており、翻訳三流でも「ないよりもまし」という翻訳書を読まなくてはならない。このような翻訳書は「海外文献を日本に紹介すること」が目的であり「商品として売る」ための翻訳書ではない。従って、学生や研究者は辞書片手に原書に向き合い著者の考えを学ぶことをオススメする。
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